Non-Fungible Love 〜 case. MACHIKO with 新幹線〜
17時50分。スマートウォッチのアラームで我に返る。資料作成に没頭しすぎてやっぱり退勤時間を忘れるところだった。朝の自分を褒めたい。スプレッドシートのリンクを「残りは週明けに対応します」のメッセージと共にチャットで上司に共有して、定時でPCを閉じた。
デスクの下にこっそり置いていたスーツケースは軽い。帰りの荷物が増えることを見越して半分空けてきたのだ。
定時上がりのちょっとした気まずさからの小さな声で「お先に失礼しまーす」と残しオフィスを出ると、まちこは早歩きで駅へ向かった。オフィスを出てすぐの最初の信号が点滅しているのに気づく。走って渡りたくなる気持ちと、"危ない橋は渡らない"マイルールがせめぎ合う。結局歩調をゆるめて赤信号で立ち止まり、こういう冒険ができないところがダメだったんだろうかとまた半年前のことを振り返ってしまうのだった。
ところでまちこがどこへ向かっているかといえば、大阪である。4ヶ月前から推している5人組男性アイドルのドームツアーの大阪公演チケットが幸運にも手に入ったのだ。ファンクラブに入って初めてのライブで、会社のトイレの中でこっそりスマホを確認してチケットの当選がわかった時にはちょっと泣いた。その夜帰宅してからファンクラブサイトでチケット購入を完了してHABETを開くと、チケットカードのサムネイル画像が担当のはやてくんだったのでもう一度泣いた。[※1]
忘れもしない4ヶ月前、夜ぼんやりと機械的にスワイプして見ていた動画アプリの中でファンの誰かが切り抜きでアップしていた「ひとりでよくがんばったね、ってただ何をするでもなく受け止めてあげたいという気持ちを込めて歌ってます」とコメントするはやてくんに出会ったのが、この推し活ライフのスタートだった。29歳のころに結婚を見据えて付き合い始め、もうすぐ丸2年というタイミングでフられた彼氏との別離のショックをようやく過去のことに割り切りはじめられそうなそんな時期で、もう、そのたった10秒の動画があまりに尊すぎたのだった。
会社の最寄り駅に到着する。エレベーターがある出口は遠いのでスーツケースを持ち上げて階段を降り、帰宅ラッシュが始まる前の空いたホームにちょうど滑り込んできた地下鉄に乗った。乗った時間で電車の乗り換え検索をして東京駅までの到着時間を確認すると、HABETに入れてある新幹線チケットカード記載の発車時刻には充分間に合う時間で安心した。
推し活を初めてからできるだけそちらにお金を注ぎ込みたくて、今回新幹線のチケットは二次流通サイトで少し安く購入している。[※2]
昔はネットでいわゆる転売品を買うと、デジタルアイテムの場合は特に偽物のリスクが高くて怖かったし「転売」という言葉にあまり良いイメージもなかったけれど、カードの発行元がちゃんとわかっていて、発行元がチェックした上での二次流通なので便利に使うようになった。
アプリ内の同じボックスにはもう1枚新幹線のチケットが入っている。新幹線のグリーン車を定期券購入しているユーザーさんが、月に何回か利用権を貸し出しできるプランがあって、行きのチケットを購入した時に同じサイトでたまたま見つけたので、帰りは少しだけ奮発して31歳ライブ参戦後の体を労ろうと購入してみた。[※3]
慣れない東京駅での乗り換えで少し戸惑いつつも、人の流れと案内表示を頼りに新幹線改札へ到着。改札にスマホをかざすと、ちゃんと自動で今日の分のチケットが認証されてゲートが開いた。[※4]
(夜ご飯に駅弁、買っちゃおうかな)
もう一度チケットで発車時刻を確認してから、改札内でひときわ賑わうエリアへ向かった。
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